リンホフプレス70の買い方
このカメラは壊れる
まず、我々はこの事に留意せねばならない。
1.最初期の個体は絶対避ける事
シャッターコック後にレンズ脱着を行う機構が無い個体(恐らくシリアルナンバー9700番前後まで)は何らかの理由でレリーズ不能になった場合レンズを脱着する手立てがない。
2.ダブルグリップ仕様の個体は危険
ダブルグリップ仕様の個体は、巻き上げロック機構が故障して巻き上げられなくなる例が散見されるため、避ける方がよい。
3.レンズ脱着が硬い個体は面倒
レンズ脱着時に力を要する個体は劣化している可能性が高い。このような個体では交換レンズの相性によっては故障する場合がある。
4.ラチェットに注意
巻き上げをロックするラチェットが原因とみられる故障(=巻き上げ不能)が比較的多いとされる。巻き上げは勢いよく行わない方が良い。
5.連動ロールフィルムバックの使用は危険
連動式のスーパーローレックスは巻き上げ抵抗が強すぎてギア割れの原因となる場合があるので使わない方が良い。
購入の目安
購入時に我々が気にしがちな様々な点に答えよう
A.レンズをどうするか
このカメラを買う時にレンズを選り好みできる可能性は限りなく低い。諦めてそのボディに付属しているレンズを使うほかない。シュナイダーは Super-Angulon, Xenotar, Tele-Arton が存在し、ツァイスは Biogon, Planar, Sonnar が存在する。ただ、願わくばレンズが2本以上付属するセットを選ぶ事。レンズが単体で出品される事は恐らくない。
B.ボディの仕様はどうするか
ダブルグリップ仕様は重量が嵩む上に故障も多い。最初期型は前述のとおり、現在も動作していればそれは「奇跡的な現象」である。基本的には左手用グリップが装着された後期型のモデルがよいが、これも余り選り好みできるものではないだろう。
C.状態・価格はどう考えるか
恐らくこのカメラはebayかヤフオクに出品される、そして粗方押し入れに20年以上しまい込まれて、場合によっては様々な箇所に不具合が出ているだろう。しかし、これについても選り好みは出来ない。恐らくこのカメラは数か月に1回程度、世界中のどこかのオークションに出品されるだろうが、価格はその時このカメラを欲しいと思っている金と時間を持て余した物好きな老人たちの気分次第だし、我々はこのカメラを元々所有していた1970年代の資産家の物置がどんな環境であるかを計り知る事は出来ない。
修理をどうすべきか
修理を望むべきではないだろう。たった2000台如きしか製造されていないカメラの部品ストックなど存在しない。かつてこのカメラを多く手掛けたカメラ屋は近頃では修理を拒否しているそうである。ただ、近頃の情報によれば「関東」のライカ修理などを引き受けている有名な店がオーバーホールを引き受けたらしい。
このカメラを買うべきか
ここまで読んだうえで、使おうという思いが変わらない人間には、このカメラを手に入れる以外の選択肢はない。ebayに張り付いて出品されたらすぐさま入札する事である。しばらくしてこのカメラが壊れると、貴方はこのカメラと過ごした時間が何と無為で上質であったかを噛み締めることになる。最高の女に振られた後の男のようにその面影を追う羽目になったとしても、それもさぞ素晴らしい経験となる事だろう。
ブログ「カメラと時代」は記事を消去し、更新をしばらく停止する事となりました。